平賀 椋太
リシンという毒物があります。トウゴマという植物の種に含まれていて、バイオテロを意図してホワイトハウスに送り付けられたこともあるものです。
どのような毒物か説明します。生き物の体をつくるためのタンパク質はリボソームという酵素によって合成されています。リシンはこのリボソームの材料になるRNA を傷つけてしまいます。このとき、RNA を構成する四種類の塩基のうち、ある重要な部分にあるアデニンが、リシンによって取り除かれてしまいます。アデニンはプリン塩基とも呼ぶので、このようなRNA の傷つき方は脱プリン化と呼びます。リボソームRNA の脱プリン化によりタンパク質をつくることができなくなった細胞は死んでしまうため、リシンは毒物として働くのです。
Seergazhi G. Srivatsan が2008 年に行った研究で、このRNA が傷ついているのを簡単に観察する方法を開発しました。蛍光を発し、ウラシルのようにアデニンと対をなすことができる、いわば蛍光ウラシルとでもいうべき人工塩基を使います。
リボソーム中の脱プリン化をしている部分と対をなすような短いRNA 一本鎖を用意し、取り除かれているか見たいアデニンと対をなす予定の塩基を、この人工塩基に取り換えておきます。この蛍光塩基はアデニンと塩基対を形成しているときは蛍光が弱くなるという性質があるので、塩基対を作れないような、毒物がはたらいた状態では蛍光が強くなるという仕組みです。
この方法は、それまで使われていた方法より簡単で、全く違う仕組みによる観察であるところに意味があると考えられます。